MUGARITTZ ― 2025/10/19 20:09
□ムガリッツ(パコ・プラサ監督 2024スペイン)
「エル・ブジ(1964-2011)」と並ぶスペインの奇想レストラン「ムガリッツ(1998~)」のメニュー開発の過程を描いた料理ドキュメンタリー。前に「至福のレストラン/三つ星トロワグロ(2023)」を観た時にも感じたのだが、この手の料理映画には文法があるらしく、オーナーシェフを囲む御前会議の様子を延々と写している。
活気に満ちた厨房や出来上がった料理、美味しそうに食べる着飾った客たちは、絵的に面白いのだが、シェフ達の美食の禅問答には退屈した。食べる立場からすれば、料理は食べて何ぼのもんで、調理場のソクラテスには興味がないのだ。しかし、店としては一番知ってほしい、同業者にはきっと興味深い場面なのであろう。
このレストラン、まだ円高だったコロナ前に一度ツアーで行ったことがあるのだが、客の一人がいみじくも言ったように、得難い「食の体験」であった。

メガロポリス ― 2025/08/25 23:40
□メガロポリス(フランシス・コッポラ監督 2024)
かのコッポラ監督が私財170億円を投じて作り上げた、世界一金のかかった自主製作映画。話題と期待を集めたが、興行収入は21億円と大コケした。
近未来の又はパラレルワールドのニューヨークを思わせる、大都市ニューローマで覇権を争うキケロ市長と天才建築家カエサルを軸にした、「メガロポリス」興亡史である。登場人物の命名に象徴されるように、ローマ共和制史のパロディとも言える。
同時に、タイトルからは、都市を主人公にしたSF映画の古典「メトロポリス(フリッツ・ラング監督 1927)」へのオマージュであることが伺われる。ここでは、メトロポリスのロボット「マリア」に代わり、万能の新素材「メガロン」が登場するが地味である。
瞬間的な時間停止や豪華絢爛かつ退廃的なパーティーなど、面白い場面もあるのだが、同じコッポラ監督の、「地獄の黙示録(1979)」のようなスペクタクルも「ゴッドファーザー(1972)」のような骨太の因果もなく、一番の見せ場になるかと思われた人工衛星の落下もいつのまにか雲散霧消して伏線は回収されなかった。
綺麗な絵はあれどエンタメ成分は薄いので、ヒットしなかったのは分かる。つまりはゴジラの出ない怪獣映画、「裸のランチ(2019)」のように、こじんまりとマニア向けに作るべき映画であった。

岸辺露伴/懺悔室 ― 2025/07/30 18:53
□岸辺露伴は動かない 懺悔室(渡辺一貴監督 高橋一生主演 2025)
「ジョジョの奇妙な冒険」の作者 荒木飛呂彦の派生マンガ「岸辺露伴は動かない」の映画化第2作。前回の舞台はルーブルで、今回はベネチアだ。いづれも中世から伝わる荘厳華麗な美の本場なので映像が萌える。
古い教会で偶然に、日本人富豪の懺悔を聞いてしまった異能の漫画家 岸辺露伴は、富豪とその娘にからむ奇怪な呪いに巻き込まれていく・・・というお話。
売り物のベネチアロケは美しく、中世の街並みと伝統あるマスカレード仮面の美しさが楽しめた。但し、露伴はジョジョではないので活劇はほとんどない。
しかし、人の心に刻まれた履歴が本のように読める主人公の超能力「Heaven's Door」とは・・・、全く、ネタに困った漫画家の切実な願望なのであろう。

F1 ― 2025/07/28 20:16
□F1 THE MOVIE(ジョセフ・コシンスキー監督 ブラッド・ピット主演 2025米)
七度のF1世界チャンピオン ルイス・ハミルトンの制作参加も得て、可能な限りリアルなF1レースの再現を試みた、FIA公認ドライブシミュレーター映画。
実際のF1レースの最中に撮影を行い、編集の妙で、何処までが本当のレースでどこからが映画なのか分からないくらい上手く作られている。観客をレーサー気分にさせるという映画の目的は達せられていると言ってよい、欲を言えばもう少しオーバーテイクのスリルを味わいたかったが。
凝ったレース場面に比べれば、筋は単純で、ブラッド・ピット演じるベテランレーサーが、期待の新人とタッグを組み、反発しながらも徐々にお互いを認め合い、協力して勝利を掴む典型的なバディ物語だ。
ハミルトンの参加は、主人公と組む新人レーサーに、自身の若いころを思わせる黒人ドライバーを置くなど、単なる名前貸しではなく内容に深くかかわっているようだ。自らがフェルスタッペンを擁するレッドブルに最終戦でしてやられた土壇場の逆転劇や、小松(代表)マジックと言われたハースの「チームプレイ」の再現など、実際にあったエピソードもうまく映画に活用している。
また、ハミルトンのかつてのライバル兼バディであったアロンソ選手も台詞付きで登場するなど、多くのF1ドライバーが実名で出演しているのもこの映画の話題と人気の一因だ。日本の角田選手の登場場面もあると聞いて期待したのだが、レースの冒頭のクラッシュシーンだった。実写なんだろうが、なんだかなあ。

新JAPONISM ― 2025/07/26 19:59
□新JAPONISM 縄文から浮世絵そしてアニメへ(東博イマーシブシアター)
東博とNHKが組んで超高精細の映像体験を提供するというので期待して観に行ったが、大きな画面のEテレの美術番組と言うのが正直な感想。硬いサイコロみたいな椅子に24分座って2000円(一般、常設展含む)は、少し高いのではと思った。
ついでに、「江戸・大奥」展に関連したバーチャルリアリティー(VR)眼鏡を覗いた。VRは初体験だったが、解像度が荒いのであまり臨場感はなかった。




JUNK WORLD ― 2025/07/23 16:27
□JUNK WORLD(堀 貴秀監督 2025)
ほぼ一人で作り上げた処女作の人形アニメ「JUNK HEAD(2017)」がファンタジア国際映画祭で受賞して一躍脚光を浴びた堀監督の、満を期して公開した第2作。
前作の成功で資金が確保できたらしく、スタッフ数も6人に増え、3Dプリンターやモーションキャプチャーなど最新技術も取り入れて、人形アニメの造形も垢抜け動きも滑らかになっていた。特撮ファン大好きな爆破シーンも惜しげなく使われていて豪華だ。今回は台詞もちゃんと入っている。
しかし、美術と技術が洗練された分、前作にあったおどろおどろしい手作り感が薄くなったのはやや残念。話も複雑になっていて、時間遡行と並行世界を組み合わせたアイデアは盛り込みすぎて少しがちゃがちゃしていた。
進化したのはキャラクター、ダークな人型キャラクターが増えて大活躍する、楽しい。この2作目が売れれば、いよいよ作者構想3部作の最終章が拝めるらしい、刮目して数年後を待とう。

MI ザファイナル・レコニング ― 2025/06/22 22:54
□ミッション:インポッシブル - ザファイナル・レコニング
(クリストファー・マッカリー監督 トム・クルーズ主演 2025)
ギネスのパラシュートスタントの記録を作ったトム・クルーズが、吹き替えなしで走ったり飛んだり潜ったりするスパイアクション映画。60代にして鍛え抜かれた腹筋を見せるために半裸にもなる。
悪のAI対人間と言う、本来能天気なヒーロー映画の筈が、奇しくもアメリカがイランの核施設をバンカーバスターで直接爆撃した直後の観劇だったので、全面核戦争勃発危機という映画の設定が絵空事と思えずリアルに怖かった。
映画の中の黒人女性大統領は悩みつつも、主人公イーサン・ハントに世界の命運を託すのだが、これが今の大統領だったら全く別の結末になったかも(汗)。
初めてIMAX(600円高)と言うので見た、画面はでかかった。

国宝 ― 2025/06/15 23:23
□国宝(李相日監督 2025)
一言で言えば歌舞伎の映画、絢爛豪華な女形の芝居がスクリーン全面に展開される。主演は隣の便所を借りた吉沢亮さん、相当な費用が掛かったと思われる大作なだけに、もし起訴されていたら偉い騒ぎになっていたであろう。共演の横浜流星ともども吹き替えなしの踊りは見事であった。
歌舞伎の制作と興行は「松竹」の専売であるが、この映画の配給は「東宝」であった。「松竹」の本作への関わり方に興味がつのる。

Flow ― 2025/05/18 18:48
□Flow(ギンツ・ジルパロディス監督 ラトビア等 2024)
(注: ネタバレ有り)
ラトビア人監督がオープンソースのブレンダーを使って低予算(約5.5億円、スタッフ50人)で作り上げた手作り的CGアニメ。巨費を投じたディズニーアニメを凌駕して今年のアカデミー賞・長編アニメーション部門を受賞したことで話題になった。
突如起きた大洪水から逃れるべく、猫と犬とカピバラと鳥と猿が一隻の船に呉越同舟して漂流する、いわばイヌネコ版のノアの箱船だ。人間が登場しないため、台詞は一つもない(猫はニャーと鳴く)が筋はちゃんとよく分かった。
予算の限界かソフトの限界か、キャラクターの毛皮や洪水の表現に、大予算CGに見られるような実写と見紛うリアルさはないが、逆にアニメ本来の造形を取り戻したとも言える。最後の場面ではようやく生き延びた猫達にまた洪水が襲い掛かり、無限ループの可哀そうな話になるのかと思わせたがさすがにそうはならなくて良かった。
登場する不思議な鳥や破壊と再生を暗示する場面などに、ジルパロディス監督が自ら語っているように、宮崎アニメの影響もうかがえる。
観てよかった。

教皇選挙 ― 2025/05/11 18:06
□教皇選挙(エドワードベルガー監督 米英合作 2024)
今話題の映画「教皇選挙」を観て来た。8日に決まった新教皇レオ14世も選挙前に(予習のため?)観たという、まさに公開のタイミングがドンピシャの映画だった。
ふむふむ、2000年の歴史を誇り、最も長続きしている組織と言われるカトリックの教会の長はこうやって選ばれるのかと、いろいろ勉強になった。ある意味俗っぽいので安心?もした。
退屈な映画かもと心配したが、次々と難題が生じるミステリー仕立ての展開で飽きさせず、最後はあっと驚くどんでん返しまであった。話題性と日曜日の所為か、駅前の名画座、今まで見たこともないぐらい満席だった。

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