ゴッホVSゴーギャン2017/09/23 02:11

□耳を切り取った男(小林英樹)

 アルルの黄色い家の中での、短いが濃密であった2人の画家の共同生活(同じ屋根の下に作家が2人!?)とその陰惨な結果を、同じく画家である著者が、2人の胸の内を推し量って描いた、ゴッホ耳切り事件のてん末。

 本書の要点を僕なりに解釈すると次のようになる。
 ・ゴッホとゴーギャンの共同生活は、画商である弟テオも巻き込んだ、印象派以降の画家の発展を支える為の共同体の設立を目指したものであった。
 ・しかし、広義の写実派であるゴッホと想像を描こうとするゴーギャンの絵画論の対立が先ずあり、ゴッホの才能がゴーギャンの理論を打ち砕いたことで緊張が増した。
 ・耳切り事件は、聞く耳持たない頑固なゴッホというゴーギャンの皮肉に対して、ゴッホが、極めて直接的に応えたものとも言える。さらには、ゴッホがゴーギャンから離れるために行った宣言的な行為とも考えられる。

 従来、耳切り事件は、ゴッホがほどなく自殺したために、ゴーギャン側の視点のみで、ゴッホの精神錯乱として説明されて来たが、著者があえてゴッホに成り代わって反論したのが特長と言える。説得力は、正直、今一であるが、ゴッホとゴーギャンの絵画をめぐる会話を横で聞いているような、バーチャル議論としての面白さはある。

ゴッホの耳

少年の名は萩尾望都?2017/09/19 22:37

□少年の名はジルベール(竹宮恵子)

 BL(ボーイズ・ラブ)漫画の草分けと言われる竹宮恵子の半生記、と言っても、僕は出世作の「風と木の詩」を読んだことがないので、アニメ化された「地球(テラ)へ・・・」の作者としての印象しかなかったが、一人の作家の、いわば創作秘話として、面白く読んだ。中でも、共に駆け出しだった萩尾望都との、一つ屋根の下での共同生活の話は、石森章太郎や藤子不二雄、赤塚不二夫らが、互いに切磋琢磨したトキワ荘物語の少女漫画家版の趣もあって興味深かった。 
 一読して強く印象に残るのは、少女漫画革命の同志であるとともに、強力なライバルである萩尾望都への愛情と尊敬と嫉妬の入り混じった言及の多さと強さである。実質的には、この半生記のほぼ全てを占めている。
 今は、京都精華大学学長を務める著者であるが、世俗的な成功とはまた別の意味で、創作者として、萩尾望都の存在が大きいのであろう。
 僕は、ふと昔観た「マチスとボナール」展を思い出した。両者は共に、印象派以降のフランス絵画を支えた素晴らしい画家であり、終生変わらぬ友人同士であったとされるが、その展覧会を観て、僕が感じたのは、天才マチスと同時代にしかも、色彩という同じ武器を特長とした秀才ボナールは、たまったもんじゃなかっただろうなということだった。勿論、ボナールも大変優れた絵描きだったが、その天賦の才の差は、両者の絵を並べてみると余りにもあからさまであった。
 きっと、著者は、この半生記を書くことで、乗り越えることができない内なるライバルの存在に決着をつけたかったのであろう。
 ひょっとしたら、タイトルは、本来「少年の名は萩尾望都」だったのかもしれない。
 2人の共同生活は、また、ゴッホとゴーギャンのアルルの黄色い家での共同生活を彷彿とさせる。同じ家に2人の作家!?である。

ピースボート乗船紀2017/09/06 22:07

□ぐうたらおやじの地球一周の旅(岩井 真)

 退職したサラリーマンが(退職金で?)乗船した、地球一周「ピースボート」の旅を綴った漫遊記。東洋出版の刊行なので、多分自費出版だと思うが、著者は、企業で何らかの文章(企画書/報告書?)を書き馴れた人のようで、大変読みやすい。図書館でたまたま見つけたのだが、拾い物であった。
 旅行ライターでもない一般人が、しがらみなく書いたピースボート体験として面白く読めた。僕には、次の点が興味深かった。

 ・ピースボートは約1000人の乗客を乗せて3か月で地球を一周する。
 ・乗客の半分は若く(学生等)、残りの半分は年寄り(退職者等)である(著者曰く、人間の使用前と使用後)。
 ・主催者が国連に認められた団体であるため、渡航先で、警備や歓迎会などの面で、それなりの優遇があることもある。
 ・長い航海中、乗客を飽きさせないように、各種の講座があるが、政治色は薄い。
 ・ダンスは出来たほうが楽しめる(ようだ)。
 ・老人が多いので、航海中に数人の病人が出る、寄港地での外泊中に帰らぬ旅に出る人もいる、しかし、スタッフは(慣れているので?)、適切に対応する。

 豪華客船「飛鳥」には手が出ないが、老後、ヒッチハイクよりは安全に世界を一周したいと考えている人には、実用的な参考書として、良いのではないだろうか? 
 今、ピースボートの乗船券は、多分百万円位からの筈である。
 帰らぬ旅となった場合は・・・?
 遺言書さえきちんと書いておけば、それも良いのではないか


peaceboat


アニメの世界浸透と拡散2017/09/02 23:10

□オタク・イン・USA-愛と誤解のAnime輸入史
                         (パトリック・マシアス著、町山智浩編・訳)

 カリフォルニア州に生まれ、怪獣とアニメにあこがれた末に東京に在住しているアメリカ人のアニメ考を、東京で生まれ、カリフォルニアに住んでいる日本人が編集・翻訳した、オタクによるオタクのためのオタク史本(住所はいずれも2006年出版時)。
 Anime輸入史とあるが、原作マンガや怪獣映画・特撮ヒーローも扱われており、アメリカにおける日本のポップカルチャーの浸透と拡散の記録となっている。日本側から見れば、アメリカのオタク(NERD、GEEK)コミュニティを突破口にしたクールジャパンの売り込みの歴史とも言える。アニメではないが、失敗に終わった「ピンクレディー」のアメリカ進出も、この流れの中で紹介されている。
 扱われているのは、アトムよりもう少し後の時代、ガンダム、セーラームーン、うる星やつら、攻殻機動隊辺りまでだが、宮崎駿やポケモンなどのメジャーな題材は、さらりと流され、「やおい」マンガの米国上陸などが、オタク的に書き込んであるのが面白い。但し、宮崎アニメのオスカー受賞作を「もののけ姫」としているのは明らかな事実誤認(正しくは「千と千尋の神隠し」)で、著者のオタク力にやや疑問が生じる。
 小池一夫・小島剛夕の「子連れ狼」がマーベルコミックに与えた影響分析などは、日本人では気づきにくい視点として面白かった。高千穂遥の「ダーティ・ペア」もアメリマンガ(アメリカ版マンガ)になり、独自の進化を遂げたようである。
 本書を読むと、今やほとんどの日本のアニメ・漫画・劇画は、米国進出を果たしたように思えるが、何故か、かの過激なレディースコミックについての言及はなかった。著者の趣味に合わなかったのか、あるいは現在、上陸中なのか・・・。
 表紙見開口絵のアニメ・コンベンションに集う全米のコスプレイヤーの写真は、ある種天国のような悪夢のような・・・・それだけでも一見の価値あり。
 OTAKU UNITE!

編集長VS漫画家2017/09/02 12:27

□漫画家‐この素晴らしき人たち(山本和夫)

 「週刊漫画サンデー」の元編集長が書いた漫画家21名との交友録。
 谷岡ヤスジの天才性、杉浦日向子のデビュー当時からの江戸指向、馬場のぼるのほのぼのさが読後感に残る。
 わたせせいぞうが保険会社のエリートサラリーマンだったとは知らなんだ。
 元編集長によると、漫画家は相手がヒラでも編集長でも同じ態度だが、劇画家は変わるそうだ。より組織人ということか?
 大友克洋らは、本書(1997年出版)には出てこない。この次の世代なんだな。

眼のない自画像他2017/08/28 11:05

□「眼のない自画像-画家幸徳幸衛の生涯(木村林吉)」
 
 明治天皇の暗殺を企てたとして処刑された幸徳秋水という名前は、今の社会科では教えているのだろうか? その幸徳秋水には幸徳幸衛という甥がいて、アメリカ、フランスで修行して画家となり、帰国後は、旅先の大阪で病死したという。
 この幸徳幸恵の、同じく画家である親族が、幸恵の画家としての再評価をもとめて、高知新聞に連載したコラムをまとめたものが本書である。おそらく寄贈されたものと思うが、図書館でなければ出会うこともなかったであろう珍しい伝記である。
 驚いたことに、明治後期から昭和初期にかけて、多くの日本人が、海外雄飛を目指して渡航している。その中には、洋画の本拠地である欧米で、自らの才能を試そうとした画家たちもいた。しかし、藤田嗣二や国吉康雄のように成功した者はごく一握りであり、大半は、不遇なあるいは平凡な画家として生涯を終えている。彼らの一つの典型として、幸徳幸衛の波乱の生涯は実に興味深い。
 それにしても、海外へ行くこと自体が今では考えもつかない一大イベントであったあの時代に、なんと多くの日本人が果敢に海外に挑戦していったのか、その明治のバイタリティに感心する。

□「大人になった矢吹ジョー(木全公彦・林公一)」

 「あしたのジョー」や「銀河鉄道999」など、昭和生まれの世代ならおそらく誰でもTVアニメ等で知っている、大ヒット漫画の主人公のその後の人生を推測した架空の続編。各原作毎に、前半では、漫画のエピソードを元にした主人公の性格分析、後半では、それに基づく後半生のオプションが紹介される。
 読後感は「中途半端」。
 主人公の性格分析もその後の展開も、掘り下げが浅いので、通り一遍であり、驚きがない。このため、本書は、原作に対する批評にもリスペクトにもパロディにもなっていない。だから読んでいても退屈であった。
 

1F事故調査報告書2012/03/20 23:31

□実物大推理ドラマ?

 ホームズを見終わって、階下の本屋を覘いたら、新聞やTVで話題になった民間機関(朝日新聞OB系だという)による福島原子力発電所事故の調査報告書が平積みされていたので思わず買ってしまった。
 事故直後の菅前首相の行動の評価を回って話題になった本報告書だが、本当はどう書いてあるのだろうか、これから読んでみよう。

1F調査報告

進撃の巨人2011/05/29 22:00

□これは予言の書か!?

 今、このマンガがすごい!と評判の、「これが21世紀の王道少年漫画だ!!」という「進撃の巨人(諫山 創)」の第1巻をとりあえず読んで見てすごく驚いた。
 もう色々紹介されているのでネタバレにはならないと思うので書くが、巨人族に囲まれながらも、高さ50mの強固な防壁を作って、その中で安全に暮らしていた人類社会に対して、ある日突然、壁を越える高さの超大型巨人が出現して襲いかかってくるというパニックSFだ。
 まるで、防波堤をやすやすと超える、想定外の超巨大津波に蹂躙された、東日本大震災のアナロジーそのものの内容なのだ。奥付によると、マンガが発表されたのは、震災の調度1年前の3月だから、まさに予言の書ということになる。

進撃の巨人

JAZZ本2009/09/10 22:18

さよならバードランド

□さよならバードランド(ビル・クロウ著、村上春樹訳)

ビル・クロウという非常に地味なジャズベース弾きの回想を、今をときめく村上春樹が、13年前に訳した本。年月の経るのは矢の如しで、今や、タイトルになったジャズクラブの名前が、不世出の天才サキソフォン吹き、チャーリー・パーカーの渾名にちなんだものであることすら、分からん人が増えているような気がする。

そんな訳で、小父さんには懐かしさいっぱいの本なので、古本屋で見かけたら買っておこう。和田 誠が描く、素晴らしく洒落たミュージシャンの肖像画がたっぷりと入っているので、ミニ画集としての価値もある。

浮谷東次郎の日記2009/08/30 22:26

がむしゃら1500キロ

□がむしゃら1500キロ(浮谷東次郎著)

日本のモータースポーツ黎明期の若きスター、浮谷東次郎が中学3年生の時に、愛車クライドラー(50cc)を駆って行った、東京/大阪/和歌山往復の大遠乗りを記した日記。チェ・ゲバラの「モーターサイクル・ダイアリーズ」みたいだ。

現在では、例え原付でも、東京/大阪の数日間のツーリングに大した驚きは無い。しかし、当時(1957年)の道路事情、車両の信頼性、東次郎の15歳という年齢を考えれば、大冒険だったのであろう。今ならば、原付ではなく、むしろ自転車で、大阪行きを追体験する方が感覚的には近そうだ。

ともあれ、僕はこの本で、初めて、伝説の天才レーサーが、千葉県(市川市)の出身であったことを知った。郷土のヒーローだったのだ。