日本特撮事件簿 ― 2025/06/10 17:23
□日本特撮トンデモ事件簿(桜井願一+満月照子 2022)
月光仮面から戦隊ものまで、古今日本の特撮のあれこれ裏話を集めた本、昭和については関係者がいなくなったり連絡がつかなかったりで致し方のない面もあるのだが、ほぼ文献調査であまり目新しい話はなかった。
注目すべきは第6章「グリーンリボン賞」で、兵庫県の映画館で催された、日本で唯一の8ミリ自主制作特撮コンテスト(1980年代)の模様が、当時の関係者の対談で熱く語られる。この章だけでも本書を読む価値があった。

須恵器に印された猫の足跡@古代DNA展
殺人者はそこにいる ― 2025/05/28 20:31
□殺人者はそこにいる 逃げ切れない狂気、非常の13事件
(「新潮45」編集部編 浅宮 拓ら 計7名著 2002(文庫))
タイトルの通り、巷の話題に上った猟奇殺人事件や迷宮殺人事件など13件の殺人事件を7名のライターがまとめた、まことに怖い事件簿。
(1)西宮「森安九段」刺殺事件(平成5年)
(2)井の頭公園「バラバラ」殺人事件(平成6年)
(3)京都「主婦首なし」殺人事件(平成7年)
(4)柴又「上智大生」殺人放火事件(平成8年)
(5)熊本「お礼参り」連続殺人事件(昭和60年)
(6)名古屋「臨月妊婦」殺人事件(昭和63年)
(7)埼玉「富士銀行員」顧客殺人事件(平成10年)
(8)札幌「両親」強盗殺人事件(平成3年)
(9)葛飾「社長一家」無理心中事件(平成6年)
(10)つくば「エリート医師」母子殺人事件(平成6年)
(11)札幌「社交令息」誘拐殺害事件(平成13年)
(12)世田谷「青学大生」殺人事件(平成6年)
(13)広島「タクシー運転手」連続四人殺人事件(平成8年)
どれも恐ろしくまた未解決事件になると後味の悪さがさらに増すにもかかわらず、結局全部読んでしまった。初版は平成14年(2002年)だが、僕の読んだのは令和3年(2021年)の27刷であった。実に19年に渡るロングセラーである。
印象深かったのは、小説「OUT(桐野夏生 1997)」のもとになったとも言われる井の頭公園バラバラ事件で、これはやはり現場を歩いたことがあるからである。銀行員が切羽詰まって顧客を殺す事件も、銀行と付き合ったことがあるのでぞっとした。
この殺人事件簿の令和版が編まれるとしたら、間違いなく取り上げられるのは、主犯と看做される容疑者が未だ精神鑑定中の、すすきの首切事件であろう。

Shall We ダンス? ― 2025/05/07 18:30
□アメリカ人が作った「Shall We ダンス?」(周防正行 2005)
「『Shall We ダンス?』アメリカを行く(1998)」で、自作(1996)の米国上映を語った周防監督が、その後、ハリウッドでリメイクされ大ヒットした「Shall We Dance? (2004) 」に原作者として関わった経験を書いた、いわば後日談、続編のようなもの。
結果的に日米の映画作りの比較論ともなり、原作者として嬉しさ半分、悔しさ半分の話になっている。言ってみれば、大谷翔平選手を育て上げながらも米大リーグに送り出さざる得なかった、日本野球の監督みたいな気分かもしれない。
楽しい話ばかりでなく、英国のブラックプールでロケしたオリジナル版のフィルムをリメイク版に無断流用されたなどのトラブルも書いてある。なお、リメイク権にはミュージカル化の権利も含まれているが実現していない。いつかブロードウェイで「Shall We ダンス?」を観てみたいものである。
ところで周防監督はじめ日本の映画関係者は、「将軍(2024)」で真田広之がプロデューサー・主演俳優としてエミー賞(2024)を総なめした快挙をどうとらえているのだろうか、少しは溜飲が下がっていると良いと思う。

江戸絵画お絵描き教室 ― 2025/05/01 23:25
□江戸絵画お絵描き教室(府中市美術館 2023)
日本では、伝統的に、古典や名画を模写することが絵を学ぶ第一歩だった。かの「北斎漫画」も絵師たちへのお手本だった。しかし、近代化の過程で、写生と個性の発揮を重んじるあまり、模写の伝統は廃れていった。
しかし考えてみれば、模写を通じて先達の物の見方や描写の技術を学ぶことは、西洋においても多くの画家がしているように、効率的な学習法の一つである。その伝統を再生すべく、若冲や応挙らの傑作を手本に、写しかたを豊富な図版で解説した模写入門本。
普通にお絵描き本としても、とても良く出来ている。この本の通りにするとすぐに応挙のように描けそうな気さえしてくる(無論無理である)。小動物の描き方がよく出ているので年賀状を考える時にも便利そうだ。

科学のトリビア ― 2025/04/29 19:52
□現役東大生が知っている科学のトリビア
(粟津絵里、岡田将典、弁元健太郎 2014)
重力とか熱力学とか、なんとなく理科の時間に教わったような気がするが、実は朧な知識のお浚いをさせてくれる科学の解説本。重力の概念は、ギリシャ時代のアリストテレスの、物体は宇宙の中心に向かうという考え方にまで遡れると言うのは確かにトリビアだった。当時、宇宙の中心は地球だったので、物みな地球の中心に落ちてくると考えた訳だ、なるほど。
ポピュラーサイエンスとしてとても良質な本だが、「現役東大生が知っている」とわざわざタイトルに付けている理由は、著者3人が皆、東大のサイエンスコミュニケーションサークルに入っている現役学生だから。頭も良いが文も上手い、大したもんだ。
巻尾で気候変動問題に関する控えめな慎重論が付記されているのは、出版元((株)エネルギーフォーラム)への忖度かな?

東京都同情塔 ― 2025/04/20 02:54
□東京都同情塔(九段理恵 2024)
実際にはアンビルドとなった、ザハ・ハディド設計の新国競技場がそのまま実現したもう一つの東京で、その競技場と対峙するように建てられた、先進的で理想的な刑務所「シンパシータワートーキョー/東京都同情塔」を設計した建築家 牧名沙羅(サラ・マキナ)の物語。
僕としては、主人公の名前に、「ターミネーター」のヒロイン サラ・コナーと、エクス・マキナ(機械仕掛けの神)というSFでおなじみの言葉が含まれていたので嬉しかった。創作にAIを活用した小説としても話題になった。

僕の音楽人生 ― 2025/04/09 20:00
□僕の音楽人生 エピソードでつづる和製ジャズ・ソング史(服部良一 1993)
笠置シヅ子の「東京ブギウギ(1947)」など、一連のヒット曲の作曲者として知られる昭和歌謡界の巨匠 服部良一の自伝。副題の「和製ジャズ・ソング史」にあるように、昭和の歌謡曲とは実は和製ジャズ・ソングだったことが読むと良くわかる。
今を時めくJPOPも、浪曲の流れを汲む古賀メロディーと、服部に代表される和製ジャズ・ソングの相克と切磋琢磨がルーツだった訳である。もともとお里がジャズだから、坂本 九の「上を浮いて歩こう(中村八大作曲1961)」は、アメリカでも大ヒットした訳だと妙に納得した。

座敷ぼっこ ― 2025/04/09 19:00
□ふしぎ文学館 座敷ぼっこ(筒井康隆 1994)
「霊長類南へ(1969)」など、どたばたSFのイメージの強い筒井康隆の、しかし抒情的な側面を表に出した短編集。「パプリカ(1993)」に通ずる夢と現実の狭間をたゆとうような作品も多い。「佇むひと(初出1974)」は再読だったが、やはり傑作であった。
虚航の作家とのイメージが強いが、意外と家族やペットを題材にした作品も多く、私小説的ですらある。子の喪失を扱った「母子像(1969)」と「夢の検閲官(1987)」は、今読むと、無意識からの警告を作品化したもののようにも感じられる。

原発文化人50人斬り ― 2025/04/08 00:04
□原発文化人50人斬り(佐高 信 2011)
1F過酷事故の3か月後に出版された本。
ビートたけしも御用タレントとして糾弾されている。菅 直人首相(当時)に、原発は水素爆発しないと言った途端に建屋が吹き飛び、原子力工学の権威を地に落とした班目春樹も、当然御用学者として斬られている。
東京電力元社長の木川田一隆は経営者として高く評価されているが、何故原子力推進派に豹変したかは明記されていない。原発には直接関係ないが、小泉純一郎と竹中平蔵が日本経済を破壊したとの説には同感。

三つのアリバイ ― 2025/03/30 15:00
□三つのアリバイ 女子大生桜川東子の推理(鯨 統一郎 2023(文庫))
ネタバレ?有り。
夜な夜なバーに集まる常連が巷の事件を推理する、安楽椅子探偵シリーズ。
多分シリーズ最終巻なので、ネタが切れたのか創作意欲が薄れたのか、鯨 統一郎得意の蘊蓄の披露と屁理屈の冴えがあまり感じられなかった。
リモート犯罪のからくりがいまいちなのである。

最近のコメント