真面目な天才画家2017/11/22 18:27

□ダリ・私の50の秘伝(サルヴァドール・ダリ)

 シュールレアリズム絵画で有名なダリのお絵描き指南書。
 若い絵描きへの手ほどきの形をとっているが、良くも悪くも、まさにダリ的な絵画論に満ちている。達者な素描による摩訶不思議な図番がたくさん入っているので、一種の妄想的詩画集として楽しむのも良い。
 一応、指南書なので、絵画技術も解説されているのだが、中には、蜘蛛を飼って幾重もの網を張らせて透過する光を見るとか、長短の杖を使ってモデルの身体を黄金律に従って固定するなど、相当怪しい方法も図解入りで紹介されている。はたして、本当に、本人が用いたのかどうかは、疑問である。
 意外にも、油絵の具の使い方だけは、非常にまじめに古典的手法を詳細に説明し、推奨している。一見奇想天外なダリの絵であるが、イメージとは裏腹に、伝統的な重ね塗りで描かれているようである。
 一番面白かったのは、ダリ本人も含めたダリによる画家の採点簿。ラファエル、ベラスケスは非常に高得点であり、ピカソは技術点においてダリよりも優れ、神秘性において劣るとされている。当時のモダンアートの第一人者であるモンドリアンはすべての項目において、ほとんど零点であった。


我孫子国際野外美術展
             イメージ写真


犬を描くには!?2017/11/19 01:44

□読んで身につくお絵描き心得(園田 誠)

 絵を描くのに必要なデッサン力とは、実は見る力と対象に関する知識だということを、犬を題材にやさしく教えてくれる手ほどき帳。具体的に言えば、犬を犬らしく描くには、足の関節の把握が一番大事と教えてくれる。
 来年の年賀状に干支の戌を描こうと思っている人は、読んでおいて損はない。


お絵描き本


永井豪自伝2017/11/18 16:16

□ヴィンテージ漫画館(永井豪)

 マジンガーZ、デビルマン、そして忘れられないハレンチ学園の漫画家、永井豪の自伝。ギャグマンガでデビューして、超絶SFアクションのバイオレンスジャックに至るまでの半生記。
 デビルマンなどあの世のことを描こうとすると、勝手にキャラが動き出し、何かに憑かれたように体調が悪化したとのこと。
 命がけで描いていたのだ。
 

永井豪自伝


サムライ洋食事始2017/11/15 00:46

□拙者は食えん!(熊田忠雄)

 ペリーの黒船で開国した幕末日本は、通商条約の調印をするための幕府の代表団の渡米、渡欧を皮切りに、海外技術・情報の収集、さらには留学のために、諸藩も含めて多くの日本人を海外に送り出した。
 幕末期の8年間に渡航したサムライの総数は約400名、ろくに辞書もなかったような時代を考えると結構な大人数である。外国の、あるいは、大枚をはたいて買ったばかりの蒸気船に乗って、何か月もの航海の末にようやく異国の港にたどり着くのだ、今どきのビジネスマンのジェットの旅とは桁違いに大変な海外出張である。ちょんまげ付けてエジプトのピラミッドも観たのである、偉いのである。
 そして、ようやく彼の地に降り立ったサムライ・デレゲーションに、さらなる試練が襲い掛かる、米と醤油に慣れた日本人には食べれるものがないのである。
 嗅いだこともないバターや獣肉(牛肉)の臭さに辟易し、日本から持参した味噌(実は赤道を超える間に腐った)は逆に臭いと捨てさせられ、ホテルのコックから生魚を分けてもらって中華街で買った醤油をかけて飢えをしのぎ、故郷を偲んだらしい。
 そんな彼らも、結局は慣れざるを得ず、最後には、洋食も結構美味いとなるのだが、シャンパンとアイスクリームだけは、最初からお気に入りだったことがおかしい。


和朝食
             サムライが食べたかったもの(イメージ写真)


酒場奇譚参拾参話2017/11/03 23:23

□酒の本棚・酒の寓話(コリン・ウィルソン、開高 健等)

 タイトル通り、酒と酒場に関する小話を集めた酒場奇譚のアンソロジー。
 33話入っているが、特に気にいったのは冒頭の「ウィスキーの起源(コリン・ウィルソン」と「白い狂女(ピエール・ガスカール)」それに「アメリカにおける禁酒法の試みと挫折(新川健三郎)」である。
 それぞれ、歴史的興奮、限られた人のみぞ知る技術的秘話、過剰な道徳が却って不道徳をもたらすジレンマを書き得て妙である。
 そうか、ウィスキーの起源は日本酒の蒸留酒(つまりは米焼酎)だったのか!?、
 知らんかった。


柏市
             イメージ写真


画家のジレンマ2017/10/29 23:32

□ヘンな日本美術史(山口 晃)

 鳥羽僧正から明治の高橋由一まで、日本の絵の歴史を画家の視点から、つまり描き方の技術論から面白く解説した美術史。今大人気の若冲も、昔から人気の応挙、雪舟も勿論出てくるが、何故か最大のビッグネームの北斎については、ベンチマーク的に名前は出て来ても、作品に即した解説はないのが、ヘンと言えば変である。
 作品の解説で繰り返し言及されるのが、日本人が昔から持っていた絵画空間の特異性、西洋から、透視図法と陰影描写に基づく写実的なデッサンが入ってくる前の日本絵画が持つ独特の空間構成の素晴らしさである。
 しかし、西洋的なデッサンを知ってしまった明治以降の日本人はもう戻れない、そのジレンマを、自転車に乗ることを覚えてしまった子供に例えて、何度も繰り返し書いているのは、画家である著者にとって、目下の一番の課題であるからであろう。
 大変面白く読めたが、アマチュア画家である僕としては、共感出来なかった。
 何故なら、僕は、未だに自転車に乗れない(遠近法に基づくデッサンをマスターしていない)子供なので、意識しないと西洋風の写実になってしまうという著者の悩みは贅沢に聞こえるからである。
 つまり、この本は、僕にとっては、所謂デッサンが出来ないことを悔やむ必要は無く、むしろ、写実的な制約から本質的に解放された人間(要するに下手糞)として、好き勝手に描けばよろしいという自信を与えてくれる本なのであった。

酒場綺譚を継ぐもの2017/10/23 17:46

□酒にまじわれば(なぎら健壱)

 僕は、酒にまつわるエッセイの類を勝手に「酒場綺譚」とジャンル分けし、そこに書かれたユーモアでまぶされた哀愁を熟読玩味する者である。
 これまで読んだ中でのベストは、「今夜、すべてのバーで(中島らも)」であったが、残念なことに、著者のらも氏は、2004年に酒場の階段から転落死したので、その軽妙なエッセイは、もう味わえない。
 しかし、偶然この本を図書館で見つけて読んだら、あまりの面白さに拾い読みのつもりが2時間かけて全部読んでしまった。
 そうか、中島らもを継ぐものは、なぎら健壱だったのだ。
 どちらも、ミュージシャン・ライター・飲兵衛である。

イギリスにも食通はいる。2017/10/15 23:11

□英国一家、日本を食べる(マイケル・ブース)

 イギリス人のフードライターが家族を引き連れて、3か月日本を食べ歩いた漫遊記。NHKがアニメにもしたので、結構有名な本である。
 読後、印象に残ったのは、次のような点。
 ・和食の特長は、出汁、つまり旨み。鰹節と昆布に限る。庶民的には味の素も可。
 ・ミシュランには出ていないが、和食の最高峰は銀座の「壬生」。勿論、一見さんはお断りなので、入るには服部校長のツテがいる。 
 ・横浜のラーメン博物館は素晴らしい。三軒は食べるべき。
 ・神戸牛は、個人的にはそれほどでも・・・
 ・辻さん(伝説の和食エバンジェリストの子息)も、服部さん(伝説の料理の鉄人)も、どちらもがんばれ、フレーフレー!!!???

 うちのツレアイは、この本を教科書に食べ歩くと張り切っている。

イシグロさんにノーベル賞2017/10/06 23:33

□村上さんはまた残念

 去年のボブ・ディランさんのサプライズ受賞に引き続き、今年のノーベル文学賞も、ちょっとした驚きで、下馬評には浮かんでこなかったカズオ・イシグロさんが受賞した。イシグロさんは、昨年、綾瀬はるか主演でTVドラマ化した「わたしを離さないで」の原作者である。「わたしを離さないで」は、ドナーとなるべく育てられたクローン少年・少女の物語なので、僕にとっては、イシグロさんはSF作家だ。
 とすると、今回の受賞は、SF作家初のノーベル賞受賞と言う快挙ではないか、カート・ヴォネガット・ジュニアも成し得なかった偉業である。世界中のSFファンは、赤飯を炊いて祝わなくてはいけない!?
 さて、イシグロさんは、英国人ではあるが、血筋的には日本人なので、多様性を重んじる最近のノーベル文学賞の傾向を見ると、日本人を続けて選ぶとは思えない。熱望するハルキストには気の毒だが、当面、村上春樹さんが受賞することはないであろう。むしろ、より若いイシグロさんが受賞したことで、このまま万年候補で終わるかもしれない。


興義館
             タイガーマスクとカンガルー


素敵なワイン紀行2017/10/04 02:51

□世界のワイン これが美味しい!(福島敦子)

 タイトルからは、シャトーなんたらの赤は、シルキーでうんたらかんたら的なワインの格付け本みたいだが、実は、ワインの味自体の評価はほとんど書いてなく、フランス、イタリア、カリフォルニア、そして日本のワイナリーを著者が楽しく飲み巡る紀行記だ。筆者が書いた素朴なイラストも添えられている。
 中心は、やはりフランスで、特にブルゴーニュには特段の愛情が感じられる。
 そういう本なので、出版は14年前の2003年だが、今読んでも充分に楽しい。いつかは、僕も、この本をガイドに旅してみたいもんだ。