日本特撮事件簿 ― 2025/06/10 17:23
□日本特撮トンデモ事件簿(桜井願一+満月照子 2022)
月光仮面から戦隊ものまで、古今日本の特撮のあれこれ裏話を集めた本、昭和については関係者がいなくなったり連絡がつかなかったりで致し方のない面もあるのだが、ほぼ文献調査であまり目新しい話はなかった。
注目すべきは第6章「グリーンリボン賞」で、兵庫県の映画館で催された、日本で唯一の8ミリ自主制作特撮コンテスト(1980年代)の模様が、当時の関係者の対談で熱く語られる。この章だけでも本書を読む価値があった。

須恵器に印された猫の足跡@古代DNA展
Flow ― 2025/05/18 18:48
□Flow(ギンツ・ジルパロディス監督 ラトビア等 2024)
(注: ネタバレ有り)
ラトビア人監督がオープンソースのブレンダーを使って低予算(約5.5億円、スタッフ50人)で作り上げた手作り的CGアニメ。巨費を投じたディズニーアニメを凌駕して今年のアカデミー賞・長編アニメーション部門を受賞したことで話題になった。
突如起きた大洪水から逃れるべく、猫と犬とカピバラと鳥と猿が一隻の船に呉越同舟して漂流する、いわばイヌネコ版のノアの箱船だ。人間が登場しないため、台詞は一つもない(猫はニャーと鳴く)が筋はちゃんとよく分かった。
予算の限界かソフトの限界か、キャラクターの毛皮や洪水の表現に、大予算CGに見られるような実写と見紛うリアルさはないが、逆にアニメ本来の造形を取り戻したとも言える。最後の場面ではようやく生き延びた猫達にまた洪水が襲い掛かり、無限ループの可哀そうな話になるのかと思わせたがさすがにそうはならなくて良かった。
登場する不思議な鳥や破壊と再生を暗示する場面などに、ジルパロディス監督が自ら語っているように、宮崎アニメの影響もうかがえる。
観てよかった。

映画ドラえもん ― 2025/05/02 20:18
□映画ドラえもん のび太の絵世界物語(寺本幸代監督 2025)
ゴールデンウィーク中にも関わらず結構な雨だったので、濡れずに済む映画館でアニメを観て来た。ドラえもんとのび太君と仲間たちが、今は失われた中世のアートリア公国を描いた絵の中に入り込み、お姫様を助けて巨大な赤い龍と戦う冒険譚。
最初は、ゴッホやムンクなど名画の世界の中に入り込む「カンヴァスの向こう側(フィン・セッテホルム、2013)」のような話かと思ったが、そうではなかった。異世界冒険談なのだが、その世界の主人公に若き絵師を置いているので、絵を描く意味に関するアニメ(Motion Picture!)にもなっている。前作「のび太の地球交響楽(2024)」が音楽を取り戻す話だったので、今回は絵にしてみたようだ。
筋、作画とも非常に良く出来ていて、思わず感動してしまった。

科学のトリビア ― 2025/04/29 19:52
□現役東大生が知っている科学のトリビア
(粟津絵里、岡田将典、弁元健太郎 2014)
重力とか熱力学とか、なんとなく理科の時間に教わったような気がするが、実は朧な知識のお浚いをさせてくれる科学の解説本。重力の概念は、ギリシャ時代のアリストテレスの、物体は宇宙の中心に向かうという考え方にまで遡れると言うのは確かにトリビアだった。当時、宇宙の中心は地球だったので、物みな地球の中心に落ちてくると考えた訳だ、なるほど。
ポピュラーサイエンスとしてとても良質な本だが、「現役東大生が知っている」とわざわざタイトルに付けている理由は、著者3人が皆、東大のサイエンスコミュニケーションサークルに入っている現役学生だから。頭も良いが文も上手い、大したもんだ。
巻尾で気候変動問題に関する控えめな慎重論が付記されているのは、出版元((株)エネルギーフォーラム)への忖度かな?

東京都同情塔 ― 2025/04/20 02:54
□東京都同情塔(九段理恵 2024)
実際にはアンビルドとなった、ザハ・ハディド設計の新国競技場がそのまま実現したもう一つの東京で、その競技場と対峙するように建てられた、先進的で理想的な刑務所「シンパシータワートーキョー/東京都同情塔」を設計した建築家 牧名沙羅(サラ・マキナ)の物語。
僕としては、主人公の名前に、「ターミネーター」のヒロイン サラ・コナーと、エクス・マキナ(機械仕掛けの神)というSFでおなじみの言葉が含まれていたので嬉しかった。創作にAIを活用した小説としても話題になった。

座敷ぼっこ ― 2025/04/09 19:00
□ふしぎ文学館 座敷ぼっこ(筒井康隆 1994)
「霊長類南へ(1969)」など、どたばたSFのイメージの強い筒井康隆の、しかし抒情的な側面を表に出した短編集。「パプリカ(1993)」に通ずる夢と現実の狭間をたゆとうような作品も多い。「佇むひと(初出1974)」は再読だったが、やはり傑作であった。
虚航の作家とのイメージが強いが、意外と家族やペットを題材にした作品も多く、私小説的ですらある。子の喪失を扱った「母子像(1969)」と「夢の検閲官(1987)」は、今読むと、無意識からの警告を作品化したもののようにも感じられる。

パプリカ ― 2025/03/22 23:47
□パプリカ(筒井康隆 1993)
この前観たアニメ映画が面白かったので原作も読んでみた。
小説は、映像命のアニメと違い言葉でたっぷりと説明できるので、夢探偵の理屈もそれらしく説明されている。作者の精神医学の蘊蓄と疑似科学を適度にブレンドしたほら話の醍醐味がたっぷり味わえるSFであった。ただ、作中人物がフロイトを時代遅れと批判していたのはやや意外であった。
小説を読んで分かったのは、アニメが原作を結構忠実に再現していたこと、無論、2時間弱の映像作品として収めるための、筋やキャラクターの整理や誇張はあったが、概ねは同じであった。しかし、悪役は、はるかに原作の方が、文字通り悪魔的で魅力的であった。尤も、映画化したのは、既に多様性尊重の21世紀、あのキャラをあのままアニメ化して世に出すのは無理であったろうな。

パプリカ ― 2025/03/04 18:46
□パプリカ(今 敏監督、筒井康隆原作 2006)
肌寒い雨の日は古いアニメでも見ようと思って、駅前の映画館に行った。
他人の夢の中に入り込めるサイコセラピストの冒険談、一応、マッドサイエンティスト発明の最新インターフェースの力を借りてと理屈付けしてあるが、どんどん夢と現実の境がなくなってくるので、見ている分には超能力活劇である。
つまり、「AKIRA(1988)」や「攻殻機動隊(1995)」の系譜を継ぐ、超能力アニメと言ってよいと思う。19年前のアニメだが、筋立ても作画も古びていないので、違和感なく楽しめた(二つ折りのケータイはでてくるけど)。
主人公たちが幸せになるハッピーエンドだったけど、筒井康隆の原作も本当にそうなのか、今度読んで確かめてみよう。なお、この映画と同名のヒット曲(米津玄師 2018)とは関係なさそうだ。

イメージ写真
宇宙戦艦ヤマト ― 2025/02/22 19:50
□宇宙戦艦ヤマト 黎明編2(塙 龍之 2024)
「宇宙戦艦ヤマト」のアニメ以降の物語、2021年に出た「黎明編 アクエリアス・アルゴリズム(高島雄哉)」の続編にあたる。黎明編「2」と言うからには、複数の書き手によって今後も書き継がれ、サーガとなる見込み(思惑?)のようだ。
氷惑星に閉じ込められたヤマトの再起動を描いた前作が、SFとしてはやや期待外れと感じたのに、続編をまた手に取ってしまったのは、ヤマトと言う名前の記号的魔力のなせる業か、それとも表紙のド直球なイラストの所為か。
結論から言うと前作より遥かに面白く読めた。ファンジン出身の新しい著者の「ヤマト」に込める思い入れ、熱量が強いのかもしれないが、名敵役デスラーを陰にちらつかせる巧みなストーリーとテンポの良さに引き付けられた。
ただ、野暮を承知であえて言うと、量子重力論的な幽霊を宇宙で活躍させるには、もう少し嘘なりの理屈を書き込んでほしかった。もっとうまくやれば、古典的SFの醍醐味、センスオブワンダーも味わえたのに、と思う。
つまり、そこを補強した「3(又は成長編等)」が出れば、また読んでしまうかも。

これはペンです ― 2025/01/17 22:20
□これはペンです(円城 塔 2011)
今、最も評判の良いSF作家の一人らしい円城 塔の本を初めて読んだ。
・これはペンです
・良い夜を持っている
の中編2作が載っていた。
正直、読みにくかった、特に最初の頁から順繰りに筋を追おうとすると、頭が混乱してきて一時は読むのを止めようかと思った。ところが、止めるのも勿体ないのでランダムに拾い読みすると、部分部分は結構面白く、結局、するすると全部読んでしまった。そういう構造の小説かもしれない。
2編とも、ざっくり言ってしまえば、家族と言葉の物語である。
なんとなく、昔大学で読まされた記号論理学の教科書を思い出した。東大大学院総合文化研究科で博士号を取得した、作者の経験から来るものかもしれない。偶然にも、最近読んだ福岡伸一の「生物と無生物の間(2007)」に出ていた、DNAの4語の塩基(A,T,C,G)の話も出てきた。

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