三体II黒暗森林2020/09/09 18:56

□怒涛の中華SF再び
 「三体II 黒暗森林 上・下」(劉 慈欣著 大森望ら訳 2020)

 怒涛の中華SF「三体」三部作の真ん中の巻、いわばサンドイッチのパンとパンとの間に挟まれた具、ベーコンとトマトとレタスにあたる部分で、一番おいしいと評判だ。
 三体艦隊が地球に向けて出発してから、地球艦隊を圧倒的な技術力で撃破するも、地球人の奸計にはまって追い返されるまでの約200年間の攻防を描く。
 奸計の中身はネタバレになるので言えないが、フェルミのパラドックス(何故宇宙人は我々にコンタクトしてこないのか?)にゲーム理論のような答えをしているところがミソである。大法螺であるが、SFの本質の本質は大法螺なのでそれでよいのだ。
 アシモフのファウンデーションシリーズをはじめ、著名SFへのオマージュが作中に散りばめられており、楽屋落ち的に楽しいが、「銀河英雄伝説(田中芳樹)」の名台詞の引用まであるので嬉しくなってしまった。
 作者もアニメオタクか?
 来年翻訳刊行予定の「三体」三部作の最後の巻「死神永世」では、舞台は宇宙の果ての外側まで行くらしい。刮目して待とう。

ポロック生命体2020/08/26 11:26

□ポロック生命体(椎名秀明 2020)

 映画化もされたバイオ・ホラー「パラサイト・イブ」で大ヒットデビューした椎名秀明の最新短篇集。SF大賞を獲った「BRAIN VALLEY」でいくところまでいった感のある作者の今回のお題はAI。しかし、AIの究極の発展を描くのではなく、AIに場を借りた創作論が真のお題であった。
 どの短編にも、かつて一世を風靡したが今はスランプに陥った作家(絵描き、小説家)がAIに転生して永遠の生命力を与えようという試みが描かれる。作者、大ヒット作の後で、すごいスランプに陥って、本気でAI支援創作を考えたのではないか?
 ということで、SFの部分に私小説がもぐりこんだ結果、波乱万丈、大カタルシスとはいかず、もうちょいで面白くなったのにというのが読後感。あるいは、ぼくのSQ(シンパシー・クオーシェント)が足りないのか、SQについては本書の「きみに読む物語」を読んでください。
 書名の「ポロック生命体」のポロックは、僕の大好きなアメリカの抽象画家。画家の創作の秘密を、絵を描くときの身体機能の動きから解析するのがアイデアとしての目新しさだったが、もっと突っ込んでそれらしく書いてほしかった。

半村版進化論2020/02/26 22:07

□虚空王の秘宝 上・下(半村 良 1994)

 上巻は、平凡なサラリーマンがひょんなことから、太古に飛来した巨大宇宙船を守る秘密結社に引きずり込まれ、国家権力の追跡を振り切って宇宙に飛び出していくという痛快な冒険談であった。
 しかし、舞台が宇宙に移り、高次の宇宙人の指導の元に進化を重ねるべく、異世界を巡っていく下巻は、筆致にリズムがなくなり、また、科学的?解説の部分も、何かの引き写しのように妙に硬くなり、全くセンスオブワンダーに欠けていた。はっきり言うと退屈で、終わり方もなんだか消化不良で冴えなかった。
 あとがきを読むと、雑誌連載で始まった本書は、途中に長い中断期間があったという。最初の熱量と筋の一貫性が維持できなかったようだ。狙いとしては、半村流の「幼年期の終り」、人類の宇宙的存在としての進化を描きたかったようだが、尻すぼみに終わった。同じ主題なら、作者得意の伝奇SF時代劇の「妖星伝」等のほうがはるかに面白い。


虚空王の秘宝


元祖「三体」?2020/02/08 02:30

□最終定理(ACクラーク&Fポール 2010)

 人類の発する原水爆やら電磁波やらに引き寄せられた、魔法と区別がつかないほど十分に発達した科学技術を持つ神のごとき宇宙人が地球に攻めてくるという、「三体」の元祖みたいな侵略SF。巨匠ACクラークの遺作となった。
 フェルマーの定理をエレガントに解いたタミル人の天才数学者と友人のシンハラ人の政治家が地球を守るために、仲良く右往左往する。お馴染みの宇宙エレベータも出てくる、ACクラークのスリランカ愛に満ちた小説。共著者Fポールの数学好きが反映されて、本筋には関係ないが、面白いロシア人の掛け算が紹介される。
 これも関係ないが、スリランカは悪魔祓いが盛んなことでも有名で、この国では、仏陀の名において悪魔に出ていけと言うのだ。
 

最終定理


怒涛の中華SF2020/01/11 02:44

□三体(劉 慈欣 2019)

 遅まきながら、今話題の世界的ベストセラー「三体」を読んだ。怒涛の中華SFだった。巻末の解説では、セーガン、クラーク、小松左京を合わせたようなファースト・コンタクトものと書いてあったが、まさにその通りで、三つの太陽の下、惑星滅亡の危機に瀕している宇宙人(三体人)が地球に攻めてくるという、どこか懐かしい感じの空想科学大小説だった。
 繰り返す災厄で文明が寸断されている筈の三体人が、次元を活用できるまでの超科学(そうとしかいえない)に到達できる訳がないとか、そこまでの超文明なら「三体」問題を解決または回避する方法を見つけている筈とか、侵略先の地球人に何故に親切に情報を垂れ流すのかなどなど、突っ込みどころ満載なのであるが、あまりに面白いので、怒涛の勢いで読んでしまった。SFの部分も、大胆な仮説どころか相当トンデル。これを科学しろと言われたら石原博士も困ってしまうだろう。
 本書には、時代背景として文化革命も登場するが、全体として中国固有の地域性は感じられず、むしろ、欧米の翻訳SFと共通の感触があった。つまりグローバル文学である、だから売れたのだ。あえて言えば、地球防衛軍を支える魅力的な悪徳警官の言動には、毛沢東のゲリラ戦思想の遠い木霊があるのかもしれない。
 三体なので、当然、本書は、三部作の最初の一巻である。今年と来年に、二巻と三巻の翻訳がでて完結する。それまで待てない!?
 ところで、今出ているSFマガジン60周年記念号では、とり・みきがマンガで「三体(サンタ)が街にやってくる」とパロっていた。そうか、お星さまになった吾妻ひでおの不条理日記を継ぐ者はとり・みきだったんだ。


三体


ルパン三世 THE FIRST2019/12/15 20:02

□これは面白い!

 ルパン三世初の3Dアニメ化、あまり評判の良くなかった実写版の二の舞になるかと思ったが、はるかに面白かった。
 最初こそ、解像度の悪いモーションキャプチャーのような人物のゆらゆらした動きに違和感を覚えたが、見慣れるにつれ、それもグランギニョール的な演出と気にならなくなり、実写さながらの質感の車がアニメならではの奔放な動きで繰り広げるカーチェースなど、3Dのメリットがしっかりと生かした痛快な画面に魅了された。 
 主人公ら、人物の造形も、不気味の谷に落ちることもなく、かといってディズニーのアナ雪のように、お人形路線にいくこともなく、特に銭形警部などは、TVでおなじみの2次元アニメの造形を巧みに3D化しており、日本アニメ独自の3D人物モデルの典型を造り上げたといっても良いであろう。この銭形警部の乗る埼玉県警のパトカーがパリを走り回る場面も素晴らしかった。
 話も、TVアニメ時代から持っていた、007的スパイ活劇と、ピンクパンサー的なドタバタ喜劇の絶妙なバランスのままに、スピーディに展開し飽きさせない。また、ルパンと運命の糸で結ばれていた少女との交流には、宮崎俊監督の「カリオストロの城」へのオマージュを感じた。
 なお、「ルパン三世 THE FIRST」という、直訳すると三世・一世みたいな妙なタイトルにも納得するオチがあった。
 見て損はないと思う、ヒットしてほしいと思う。
 そうすれば、トムとジェリーのような、ルパンと銭形警部の永遠の追いかけっこがまた見られるのだから。


ルパン3世


ボーダー2019/11/16 22:43

□実写版ムーミン!?

 北欧のスティーブン・キングとも言われているヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの短編に基づくダーク・ファンタジー。
 実に不思議というか、はっきり変な映画だ。ネタバレになってしまうので詳しく書けないが、実写版ムーミンのようなものである。逆にこの映画を見て、何故実写版ムーミンが作られないのかがよく分かった。かなり不気味な代物になるのだ。


ボーダー


眉村卓さん逝去2019/11/04 12:58

□官僚SFのパイオニア

 「消滅の光輪」など司政官シリーズで知られるSF作家の眉村卓さんが3日なくなられていた。官僚SFという新ジャンル(本人によれば「インサイダー文学」)の開拓者だった。作品は、さらりまん時代に愛読したが、テクノクラートの技術者倫理という、今日でこそ重要な問題も含まれていた。
 死因は誤嚥性肺炎、享年85歳。合掌。

吾妻ひでおさん逝去2019/10/22 17:40

□二つの日記

 星雲賞、手塚治虫文化賞受賞の漫画家、吾妻ひでおさんが13日に逝去されていた。かねてから食道がんで闘病中だったようだ。
 もえもえSFマンガの開拓者とも言える同氏だが、僕には、「不条理日記」と「失踪日記」の二作が特に印象深かった。
 享年69歳、合掌。

永井豪展2019/09/28 22:22

□やっぱりデビルマン!!!

 上野の森美術館で「永井豪」展を観た。
 ハレンチ学園などでわりと柔らかい線描のイメージの強い漫画家だが、時期によってはアメコミ風の筋肉と影を強調した絵も試みていることが分かった。
 僕が好きなのは、やっぱり、デビルマン!!!


永井豪展
永井豪展