ウルフウォーカー2021/02/04 22:48

□Wolf Walkers(トム・ムーア監督 2020)

 狼に跨り髪を振り乱して疾走する少女のアニメとくれば何を連想するであろうか?
 当然「もののけ姫(1997)」である。
 この、絵本のように綺麗な森の中で展開する、少女と狼と邪悪な文明のドラマは、チラシによればケルト伝説に基づいたものであるが、僕にとっては、明らかに宮崎勲アニメに影響を受けたジブリの子である。
 なので、同じように、とても、美しく、そしてほろ苦い。
 最近のニュースによると、本作も、かの大ヒット「鬼滅の刃」などとともに、2021年のアカデミー賞長編アニメ部門にエントリーされている。


Wolfwalker


君はフィクション2021/01/17 02:12

□君はフィクション(中島らも 2006)

 酒場の階段から2004年に落ちてなくなった日本のビートニク、中島らもの死後に組まれた短篇集、熱心ならもファンが買っても損はないように、未発表の書き下ろし2点(*印)が含まれている。
 ・山紫館の怪: 僻地の宿で地図業者が収集する怪異とは
 ・君はフィクション: 巻末の解説によれば躁うつ病の経験に基づいた作品
 ・コルトナの亡霊: 絶対的な恐怖映画に対峙した新聞記者は
 ・DECO=CHIN: この世のものとも思われないスーパーバンドに圧倒された僕は
 *水妖はん: 沼に潜む怪物を退治するが
 ・東住吉のぶっこわし屋: 日常的に怖い「激突」人間版
 ・結婚しようよ: タイトルそのまんまの明るい青春談
 ・ねたのよい-山口富士夫さまへ: ロッカーへのオマージュ
 *狂言「地籍神」: 新境地への挑戦、言語実験
 ・バッド・チューニング: 共感できる意味のない失敗
 一番強烈なのは、幻想とも狂気とも区別のつかない、ウィリアム・バロウズの描く絵にも似た「DECO=CHIN」。自主規制圧力の強い今では、色々な意味で書けない作品であろう。一番気に入ったのは、水木しげるとラブクラフトを混ぜたようなとぼけた味の「水妖はん」。それにしても惜しい人をなくしたものだ。

バットランド2021/01/05 18:49

□バットランド(山田正紀 2019)

 山田正紀の比較的新しい短篇集。
 ・コンセスター: 人体兵器化の被験者となった若者の悲劇
 ・バットランド: 認知症の老人は蝙蝠と一体となって宇宙を救う
 ・別の世界は可能かもしれない。:少女と知能ネズミ、ミュータント同士の一騎打ち
 ・お悔みなされますな晴姫様、と竹拓衆は云った: 秀吉の影にいた超能力者集団
 ・雲の中の悪魔: 絶対神、万物理論知性体の支配から脱却せよ
 の、五編を収録。

 僕が一番面白かったのは、やはり表題作の「バットランド」。
 お約束通りのマッドサイエンティストも出てくるし、最新物理学を引用したほら話も楽しい。関係ないが松戸在住の科学者はマツドサイエンティスト。
 作者の初期の作品には、蝙蝠の超音波で警報装置を攪乱させて原子力発電所に侵入する話もあり、蝙蝠が好きなのだろう。
 映像化すると面白そうなのは、「別の世界は可能かもしれない。」。
 豪雨がなだれ込んでくる地下鉄線路を轟音を発して進むポンプ機関車、その車上で対峙する超能力ネズミと超能力少女の戦いは、かなりスペクタクルだろう。
 ここでは、蝙蝠ならぬネズミが出てくる。作者はやはりこの手の小動物が好きみたいだ。次回作の主人公はスーパーモモンガか、それともハム太郎とのコラボ?


山田正紀


日本SF誕生2020/12/29 22:50

□日本SF誕生-空想と科学の作家たち(豊田有恒 2019)

 同じ著者の「日本アニメ誕生」が興味深かったので、遡って読んだ日本SF史で自伝。手塚治虫、平井和正らとの交流を中心にあのころのことが語られる。
 日本SF草創期のファンダムの写真など、貴重な資料も多く掲載されている。大珍品は、SFコンのおりにコースターの裏に描かれた、鉄腕アトムに食いつくホシヅルの絵、なんと、手塚治虫と星 新一の共作、真筆である。是非、「開運!なんでも鑑定団」に出してほしいものだ。ちなみに、筒井康隆夫人 光子氏の名前から、永井 豪が光子力ビームを思いついたという話はどこにも書かれていないのは何故かと言うとそんなことはなかったからだ。


日本SF誕生


日本アニメ誕生2020/12/21 21:36

□日本アニメ誕生(豊田有恒 2020)

 SFではなく、日本のSFアニメを始めたSF作家の自伝、そのままクールジャパンの主力商品として今をときめく日本アニメの誕生史にもなっている。
 著者の豊田有恒は、SFマガジンコンテストに受賞後、手塚治虫にあこがれ、「エイトマン」、「鉄腕アトム」、「スーパージェッター」、「宇宙少年ソラン」のシナリオライターを務めた後、頭脳集団「パラレルクリエーション」を立ち上げて、「宇宙戦艦ヤマト」のSF設定などを手掛ける、一方、SF作家としては「ヤマトタケル」シリーズを刊行する。
 読んでみて、なるほどそうだったと改めて気が付いたのは、日本のTVアニメは、最初の「鉄腕アトム」を皮切りに、「鉄人28号」、「エイトマン」と、ロボット3連作で始まったこと。発生学的に日本アニメは、ロボットアニメが保守本流で、これが「マジンガーZ」、「ガンダム」、「エヴァンゲリオン」とつながっていくのだ、最近、お後がいないような気がしてちと寂しいが。
 「宇宙戦艦ヤマト」のプロデューサー西崎義展の功罪についての記述も興味深い。著者の見立てでは、ほんとの原作者は「おおよそ松本零士」、さもありなん。
 自作の「ヤマトタケル」も数回アニメ化の話があったが、結局実現しなかったそうで心残りの様子だ。まだ、チャンスはある!と思う。
 同じ著者で「日本SF誕生」というのもあるので、これもそのうち読んでみよう。


日本アニメ誕生


恍惚病棟2020/12/18 01:23

□恍惚病棟(山田正紀 1992)

 僕は、哲学漫画と評された「神狩り(1975)」以来の山田正紀のファンであるが、今月号のSFマガジンに、新装版の文庫で祥伝社から復刊されたと書いてあった「恍惚病棟」は知らなかった。早速、図書館で見つけて読んでみた。老人力入門者としては、実生活の参考になるかと思ったのだ。
 内容は、SFではなく、老人病棟で相次ぐ痴呆症老人の変死の謎を解く推理小説だった。本格ミステリ大賞を受けた「ミステリ・オペラ(2002)」に先立つこと10年の作品である。と云っても、山田正紀なので、謎の中心には、画期的な治療法としてSF的なアイデアが導入されており、境界的な作品である。
 ただ、何分にも28年前の作品なので、今の目で見ると、当時の最先端技術であったヴァーチャル・リアリティや萌芽的なAIの捉え方などには、違和感も感じる。
 しかし、復刊を続けてロングセラーになっているのは、老人性痴呆という、ある確率で起きる残酷な真実をテーマに据えた先見性の為であろう。老人になると男は孤立しがちだが、女は惚けても社会性を維持するというのは、本当にそうだろうと思う。
 作者も早70歳、もはや病棟の内に入る可能性も無いとは言えない訳で、でも、こんな治療法は受けたくないだろうな、と思った。
 

鬼滅の刃2020/12/13 23:10

□ピアスを付けた桃太郎の鬼退治

 遅まきながら大評判のアニメ「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」を観てきた。歳をとってもミーハーだから、流行り物は気になるのだ。ディズニーアニメの公開延期などでライバルがいないせいか、興行はすこぶる好調で「千と千尋の神隠し」の約三百億円を抜く勢いだという。
 僕も、千と千尋を質的に凌駕するとまでは思わなかったが、丁重に描かれライティングに凝った背景や、機関車などの3DCGとセル画風の2D作画を違和感なく融合した動きのある画面に感心し、文字通り猪突猛進的に進む鬼と少年剣士とのバトルを充分に楽しんだ。
 物語としては、大正に蘇った「桃太郎」の鬼退治である。昔話、つまりある種の原型の物語なので、面白くて力強い。しかし、桃太郎には、戦意高揚に利用された過去があり、その意味では、主人公の竈門炭治郎(かまどたんじろう 難しい漢字だ。)の耳飾りの日輪文様から旧日本軍を連想して拒絶反応を示した、韓国の一部の見方は、あながち全く根拠のない誤解とは言い切れないものがある。ちなみに、僕の覚える限りでは、耳にピアスをした少年漫画の主人公は炭治郎が最初ではないか。
 ただし、桃太郎は鬼を退治して財宝を得たが、鬼殺隊の少年剣士たちは、ほぼ無敵の鬼たちに哀れにも殺され続ける。偶然か必然か、今の時期での公開で、鬼たちは、近代文明が切り捨てた森に棲むなにものかの復讐を体現するものとして、コロナ禍のメタファーにもなっており、これも大ヒットの一因と思う。
 時代背景を大正にしたのも絶妙だと思う。江戸時代では古すぎて、感情移入がし難いし、時代考証も大変だ。昭和では、新しすぎて、鬼相手のチャンバラはさすがにリアリティがなくなる、よしんば鬼が出て来ても軍隊の出番となるであろう。明治では、列車のような近代的なガジェットは出し難い。鬼の棲まう古代と観客のいる現代をつなぐ時代として大正を選んだのは誠に秀逸である。
 惜しむらくは、折角の魅力的な時代設定なのだから、明治を抜けて仮初めの大正デモクラシーを謳歌する市井の人々、街の賑わいなどをもっと画面に入れてほしかった。
 次回作に期待しろということか?


鬼滅の刃


代表取締役アイドル2020/12/11 23:10

□代表取締役アイドル(小林泰三 2020)

 堀 晃さんのブログに紹介されていた本、と言ってもいわゆるSF(Science Fiction)ではなくて、量子コンピュータの中に無限に詰め込まれる可哀そうなシュレ猫も出てくるが、基本、社会小説(Social Fiction)のSFである。
 地下アイドルがひょんなことから、技術系大企業の社外取締役に就任、あれよあれよという成り行きで社長に昇り詰めるが・・・というお話。
 ドタバタのお笑いかと思いきや、意外と真面目な会社経営入門(株式会社のいろはとか、粉飾決算入門とか)にもなっているので、新入社員は読んでおくと何かの役に立つ(かもしれない)。
 研究所の所長が、実は、正確には研究員の研究内容を把握していないとか(個別の研究領域は非常に専門化しているため、ある意味当たり前)、研究所の組織や本社との関係、研究員の挙動の描写が妙にリアル、研究所あるあるで楽しめた。きっと作者の体験なのだろう。
 作者の小林泰三さん、本作を読む限り絶好調に見えるが、この11月に逝去されている。享年58歳、合掌。


代表取締役アイドル


消えたダ・ヴィンチ2020/11/27 00:43

□「消えたダ・ヴィンチ」(J.G.バラード 1964)

 絵を通り抜けてタイムトラベルする女の子が主人公の「カンヴァスの向こう側」を読んでいた時に、そういえばバラードの作品に、レオナルド・ダ・ヴィンチが現代に来てとかいう話があったなあと思ったが、記憶が定かではなかった。調べてみたら「J.G.バラード短篇集3-終着の浜辺(東京創元社 2017)」に収録されている「消えたダ・ヴィンチ」がそれだった。
 ただ、ダ・ヴィンチがタイムトラベルするというのは記憶違いだった。処刑場に赴くキリストに暴言を吐いたために、最後の審判の日まで世界中を放浪する羽目になった、さまよえるユダヤ人ことアハシュロスが、現代のルーブル美術館に現れ、ダ・ヴィンチの名画「磔刑図」に描かれた、いかにも悪人の己が姿を、良い人に見えるように改ざんする話だった。
 呪われた不死人が現代まで生き延びて悪さをするという点では、タイムトラベルものではなくドラキュラものの系譜だった。尤も、この作品の最大のフィクションは、キイとなる「ダ・ヴィンチの磔刑図」にあった。実はこんな名画はどこにもなく、完全にバラードの創作である。作者あとがきによると、この「磔刑図」を本物と信じてルーブル館内を探し歩いた読者からお手紙も戴いたそうな。
 この短篇集には、このほかに「薄明の真昼のジョコンダ」と題する、同じくダ・ヴィンチの「岩窟の聖母」が登場する小品も収められており、バラードの芸術趣味というかスノビズムが楽しめる。ちなみに「岩窟の聖母」は、ちゃんとルーブルに実在する。


JGバラード


その果てを知らず2020/11/20 01:17

□「その果てを知らず」(眉村 卓 2020)

 堀 晃さんのホームページで紹介されていた眉村 卓さんの遺作、なんとなく気になったので読んでみた。高齢の主人公の入院生活から始まるので、身体能力の日々の劣化を感じている高齢者初心者(入院経験あり)としては、とても共感できた。
 主人公は、最後の小説を病院のベッドで書き綴るSF作家、本作は小説を書く小説家の小説というメタ小説になっている。実際にも作者は、抗がん治療を続けながら病院で遺作となる本作を執筆した。このため、どこまでが「小説」で、どこまでが「闘病日記」なのか、読者も、虚実の境目が朦朧とした、手術前の麻酔に落ちるまたは麻酔から覚める瞬間の、幽冥の境にも似た気持ちにおそわれる。
 筋自体にたいした意味はないと思われるが、死期を覚悟したSF小説家が、パラレルワールドへの輪廻転生と云おうか、生命の再構築と云おうか、ともかく何かの形で死後の世界があるとの思いを受け入れて、明るく(?)旅立っていく話である。
 年寄りの死に方についての話と要約すれば身も蓋もないが、身にはつまされる。
 その旅立ちの心がけが、宗教的な必死なものではなく、そうであったらそれもまた良いであろうというのんびりとしたものなのが、SF作家らしい余裕であろう。
 と言っても、SF的な道具立てはほとんど出て来ないが、後半では、なんの説明もなく瞬間移動(ジョウント)できる人が当たり前に増えてくる。社会も、まるでスマホの普及を語るように、ごく自然にその現象を受け入れていく。それによって何かが大きく変わるわけでもなく、虎も出てこない。そもそもそれが小説の中の現実なのか、主人公の妄想なのかも判然としない。ただそうだろうと思う。
 主人公(作者)の若かりし頃の回想シーンに、日本SF草創期の作家たちが登場する。仮名であるがはっきりわかる形で、星新一、小松左京や筒井康隆、南山宏らとの交流が描かれていて、SF版の「まんが道」としても面白く読めた。
 ところで題名の「その果てを知らず」は、小松左京の「果てしなき流れの果に」への返歌なのだろうか?
 読後、老いて死ぬのもそう悪くないと思わせる本。


眉村 卓