Oscars for Two2024/03/11 18:05

□快挙二連荘!

 米国アカデミー賞にノミネートされていた日本映画2本がめでたくオスカーを受賞した。視覚効果賞の「ゴジラ-1.0」と長編アニメ映画賞の「君たちはどう生きるか」だ。
 ゴジラは低予算でCGと実写を合成して迫力ある映像を作る技術が、「千と千尋の神隠し」に次ぐ2度目の受賞となった宮崎アニメは、王道の異世界ファンタジーと手書きの2次元作画に拘った日本アニメのスタイルが評価されたようだ。
 何にしろ目出度い話だが、特にゴジラの視覚効果を支えた「白組」は、中心となったCGアーチストをハリウッドに引き抜かれないように気を付けた方が良い。
 午後、福島を思い黙祷。


Godzilla at Kinejun-theater


「三体」TV版2024/02/28 13:29

□中華SFドラマ一気見

 世界的なベストセラーになった中華SF「三体」のTV版をWOWOWオンデマンドで一気に(といっても半月くらいかけて)視聴した。科学者の謎の連続自殺から宇宙からの侵略が明らかになるまで、三部作である原作の第一部をほぼ忠実に30話で再現している。長かったがとても面白かった。
 感心したのは、クライマックスのタンカーの場面を別にすると、それほど派手なCG/SFXを使わずに、推理タッチの人間ドラマでSFとしての緊張感を維持した演出、中国の制作陣の水準はハリウッド並みに高い。サブタイトルは"Three-Body"、エンディングの歌も英語であり、明らかに世界市場を意識していた。


三体


ゴールデンカムイ2024/01/27 22:24

□北海道を舞台にしたインディージョーンズ活劇

 人気の漫画を原作にした実写映画「ゴールデンカムイ」を観て来た。封切りから出足快調と聞いていたが、本当に面白かった。一言で言えば、北海道を舞台にしたインディジョーンズ風の宝探し活劇なのだが、漫画の荒唐無稽さをうまくユーモアに絡めて実写化しているのに感心した、戦闘アクションも素晴らしく、熊や巨大狼のCGも違和感なく北海道の雪景色に溶け込んでいた。
 登場人物はヒロインのアシリパも含めて、皆ある種怪人揃いなのだが、なかでも主役の不死身の杉元(山崎賢人)を完全に食った狂気の鶴見中尉役の玉木宏の怪演に魅せられた。否、全キャスト怪演なのだが、抑えた怪演が実に素晴らしかった。
 長い原作から見れば、この映画はほんのプロローグ、主要人物の顔見世がやっと終わった段階だ、要するに次作、完結編を作る気まんまんのシナリオだった。客の入りが良いのでちゃんと製作費は回収できると思う、次回作にも期待しよう。
 あと、この映画を見ると、ジビエの味噌煮が食べたくなると思う。




君たちはどう生きるか2023/12/13 17:32

□君たちはどう生きるか(宮崎俊監督 2023)

 宮崎アニメは少々見飽きたので、「君たちはどう生きるか」も観る気はなかったのだが、米仏で好評と聞いて俄然見たくなり観てきた。我ながらミーハーである。
 結論から言うと大変面白かった。
 SFのナウシカのようなはっきりした筋立てがある訳ではなく映像コラージュに近いのだが、そのつなぎ方が上手いので何か面白い話と錯覚させられてしまうし、昨今では希少価値となって来た丸っこい手書き風のキャラクターと水彩画のような背景との調和が絶妙で、動く絵本としてとても素晴らしかった。今や完全に3DCG化したディズニーアニメの技と心は、むしろ宮崎アニメが受け継いだかとすら思えた。
 興味深いことに、この映画も、ほぼ同時期に上映中の「ゴジラ-1.0」や「鬼太郎誕生」と同じく、日本の戦中戦後を背景にしている。並べてみるとまるで終戦3部作だ、偶然なんだろうか、それとも映画監督はカナリアなのだろうか、気になる。
 そう言えば、宙から降って来た塔が人を狂わすという設定は、横山光輝の「バビル2世」への密かなオマージュかもしれない。
 封切り前の広告をほとんどしなかった本作だが、興収は好調で現在86億円、始まったばかりの米国興収(The Boy and the Heron)を加えれば100億円を突破している。ま、化け物だった「千と千尋の神隠し」の300億円超とはいかないが。


アオサギ


ゲゲゲの鬼太郎2023/12/10 17:09

□鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎(水木しげる原作 古賀豪 監督 2023)

 「ゲゲゲの鬼太郎」の原作者水木しげるの生誕百周年を記念して作られたアニメ。 
 戦後間もない寒村で謎の大富豪の葬儀が行われ、社を代表して参列した若き水木しげる(!)は怪異な連続殺人事件に巻き込まれ、という横溝正史的な幕開けから、やがて隠された人間と妖怪族の歴史があらわになり、水木ワールドが始まる。
 最初は、現代アニメの細い描線に戸惑ったが、見ている内に気にならなくなった。   
 大事な妖怪の造形も単なる原作の再現を超え、江戸時代の浮世絵等にまで遡り、CGも活用して再造形されていたので感心した。
 話の基調には日本の敗戦があり、これは先に公開された「ゴジラ-1.0」とも共通しているのが気になった。どちらの監督も、今の日本に何かやばい気配を感じているのではないだろうか。
 日曜日だったせいか、観客席は珍しくほぼ満員で、しかも中高校生の女子が目立ったのは、日本映画界の未来を考えると良いことだと思う。


ゲゲゲの鬼太郎


ゴジラ-1.02023/11/12 16:11

□ゴジラ-1.0(山崎 貴監督 2023)

 評判の怪獣映画、「ゴジラ-1.0」を観た。興行の出足絶好調という。その割には、おおたかの森ではゆったりと鑑賞できたが、これは面白かった。別格の初代「ゴジラ(1954)」を除けば、「ゴジラvsビオランテ(1989)」と同じくらい傑作なのではないか。
 きちんとハラハラドキドキの怪獣エンタメに仕上げられており、「シン・ゴジラ(2016)」のような疑似科学ならぬ疑似ポリティックスの長口舌もなく、主人公の恋愛も、終戦直後の混乱を背景として無理なく筋と一体化していた。
 無論、一番の売りの、ゴジラによる容赦ない人間文明の蹂躙シーンは秀逸で、破壊された銀座の時計台の描写は素晴らしかった。日本のCGSFXもようやく「ジェラシックパーク(1993)」の水準に追いついたようだ。
 これひとえに、最近の高層ビルの高さに合わせて100m級にまで巨大化が進んだゴジラの身長を、生物としてぎりぎり許される50m級の原点に戻し、そのゴジラが暴れ回るのに最適な舞台として、昭和のビル街を選んだ監督の時代設定の慧眼のなせる業であろう。戦後の混乱にゴジラ来襲の混乱を重ねてリアリティを産み出したのだ(初代へのオマージュで国会議事堂も襲ってほしかったが)。
 対ゴジラ戦に投入される武器も、大戦を生き延びた中古軍艦とプロペラ戦闘機という実在の兵器に拘り、「スーパーX」など架空の超兵器は使わずに、「嘘は一か所(ゴジラだけ)」というSFの作法を守った点も好ましい。退役軍人が骨董品の戦艦でエイリアンと戦う「Battleship(2012)」と少し似ているような気もするが。
 ラストは、きちんとハッピーエンドに締めくくりつつ、次回作を匂わせるエンディング。山崎監督、これでやっとSF界において、実写版宇宙戦艦ヤマトの監督と言う悲惨な看板を払拭することが出来たようだ。
 めでたし、めでたし。


ゴジラマイナス1.0


究極の時代劇映画2023/10/23 20:38

□極限まで遡ると・・・

 SF作家堀晃氏のブログ日記を読んでいたら、「時代小説を極限まで遡れば、縄文小説、さらには『原始人小説』」と書いてあった。
 なるほど、その伝でいけば、僕が幼少のころに心ときめかしたラクウェル・ウェルチ主演の「恐竜100万年(1966)」は、極限まで遡った「時代劇映画」だったんだと納得。但し、「原始人映画」となると「北京原人 Who are you ? (1997)」というのがある。


柏市アーケード


福田村事件2023/09/04 21:46

□福田村事件(森達也監督 2023)

 関東大震災直後の流言飛語の中、千葉の平和な農村で旅の薬売りの一座が朝鮮人と間違われて虐殺された、史実に基づく映画を震災100年後に見た。
 なんでそんな後味の悪そうな映画を見たかと言うと、舞台の福田村がお隣の野田市(現 三ツ堀)だったからだ。ちなみに巻末のクレジットには同市の撮影協力はなかった。さもありなん。
 実は村の自警団結成のお墨付きとなった内務省の打電ですら、朝鮮人暴徒への警戒と対応を求めていたが、殺せとは言っていない。しかし、デマで恐怖に駆られた村人は、異邦人の虐殺に雪崩をうった。村長にもそれを止める術はなかった。
 信じられないような酷い話だが、今の会社などにおいても、後から考えれば非合理としか言いようのない判断に皆が流され、組織が妙な方向に暴走するというのは、割とあるんではないかなと思ってしまった。
 一度物事が動き出せば個人で抗うことはまず不可能である。そうなる前に冷静に情報の真偽を見極め、妙な指導力を発揮するトリックスターもどきが出て来ないようにするしかないのだが、これがなかなか難しいのである。
 1月に参議院議員を辞職した水道橋博士が、俗人の典型のような自警団長の役をまことにうまく演じている。
(追記)
 もう少し調べてみたら、事件後に検挙された村人8人の内、4人は福田村だが残りの4人は田中村(現 柏市)の住民だった。他所事では無かったのだ。


野田市三ツ堀こうのとりの里
            野田市三ツ堀こうのとりの里
            近くの利根川添いの圓福寺には事件の慰霊碑がある。


裸のランチ2023/07/17 23:26

□裸のランチ(デヴィッド・クローネンバーグ監督 1992)

 ビートニク作家の長老格として知られたウィリアム・バロウズの同名の小説に基づきながらも、仮面ライダーの怪人を思わせるタイプライター怪人の出現など、原作のイメージを大幅に改変又は強化した誠に奇妙な映画だった。バロウズが夫人を撃ち殺したかの有名なウィリアムテルごっこのエピソードも盛り込まれている。
 一言で言えばシュールなファンタジー映画で、絵的に面白い場面もあるのだが動きが少なく文学的なので、ふっと寝落ちしそうにもなった。筋はあってないようなものだが、一応はジャンキー作家バロウズの誕生秘話なのだと思う。
 ハリウッド娯楽大作のように料金分確実に楽しませてくれる種類の映画ではなく、聴衆を選ぶカルトな映画である。


Naked Lunch


岸辺露伴ルーヴルへ行く2023/07/16 20:32

□岸辺露伴ルーヴルへ行く(渡辺一貴監督 2023)

 「ジョジョの奇妙な冒険」で高名な漫画家 荒木飛呂彦の同名の漫画(フランスのバンド・デシネ(BD)スタイルで描かれ、2009年のルーヴル美術館のBDプロジェクトで展示された。)を実写映画化したサスペンス・ホラー。
 ルーヴル美術館の地下倉庫に秘蔵されているという、江戸時代の日本人絵師の描いた邪悪な「黒い絵」を、漫画家 岸辺露伴が探しに行き、怪異に巻き込まれる。
 ルーヴル美術館を貸し切ってロケしたと番宣していたので、パリに行った際に予約なしで入れなかった美術館の内部をたっぷりと拝めるのではと思って見に行ったが、美術館内部の描写は僅かだったので少しがっかりした。
 ホラーとしてはあまり怖くない、悪魔映画は悪魔を見せた瞬間に失敗するのだ。
 主演の高橋一生は、上手に漫画の主人公のイメージを再現していて感心した。


岸辺露伴ルーヴルへ行く