ドラキュラ・シンドローム2024/01/31 14:24

□ドラキュラ・シンドローム 外国を恐怖する英国ヴィクトリア朝
                         丹治 愛(2023(文庫版))

 ドラキュラを題材に19世紀末イギリスの外国恐怖症を分析した文学研究。もともとが学術書なので文章は硬く読み辛い。引用文献も当時の風刺画も含めてんこ盛りである。つまり大変よく調べてあるので、これからドラキュラをネタに何か創作したい人は読んでおいて損はない、と思う。
 僕が理解した範囲では、ブラムストーカーの「ドラキュラ」とは、植民地支配を進めてきた大英帝国が、いつかアジアからしっぺ返しを受けるのではないかという恐怖を背景に、当時急増していた東欧ユダヤ難民に対する警戒とコレラ流行への危機感が魔人の形をとったものという趣旨のようだ。例えば、ドラキュラがユダヤ人のステロタイプであるカギ鼻であることを指摘している。
 しかし、今に至るも、ドラキュラは、欧米はおろかアジアを含めて世界中で大人気である。この普遍的な人気の源泉についての言及がないのは少し残念。


ドラキュラシンドローム


JAZZで踊って2024/01/31 19:41

□JAZZで踊って 舶来音楽芸能史(瀬川昌久 2023(文庫版))

 おおよそ昭和元年から16年の日米開戦に至るまでの、日本における舶来ポピュラー音楽(主にダンス音楽)の受容と変遷の芸能史。当時フォックストロットと言われたジャズは、ダンスホールの伴奏を中心に活動分野を広げ、タップダンサー(タッパー)と歌手との組み合わせで人気を博したことなど、知らない歴史が面白かった。
 興味深かったのは、実は日本における大衆歌謡の出発点は、ディックミネの歌った「ダイナ」などのJAZZ歌唱であり、元祖歌謡曲ともいうべき「影を慕いて」などの古賀メロディーはその後に流行したこと、そうかJAZZの方が先だったんだ。
 本書に登場するほとんどの歌手、ジャズマンは知らない人たちだが、朝ドラ「ブギウギ」で再び脚光を浴びている笠置シヅ子や淡谷のりこ、トランぺッターの南里文雄など知っている名前もあった。服部良一も日本のガーシュインと讃えられている。
 驚いたのは、昭和3年にはすでに日本初のアマチュア学生ジャズバンド「ラッカサン(Luck & Sun) ジャズバンド」が法政大学に生まれていたこと、このバンド名は、おそらく英語と日本語をかけた一番古い駄洒落じゃなかろうか。
 で結局、昭和16年の日米開戦で、「JAZZで踊って」の時代はあえなくちょん切られ、再開には終戦を待たなければならなかった。
 そういえば今年(2024年)は昭和99年、来年は百年祭だ。

 本の表紙写真は、当時大人気のタッパー中川三郎とベティ稲田を主役にした音楽映画のダンスシーン(昭和11年)、なかなかお洒落である。