一発屋芸人列伝2021/02/27 00:25

□一発屋芸人列伝(山田ルイ53世 2018)

 芥川賞をとった又吉直樹は別格としても、芸人には筆達者が多いような気がする。
 もともと、お笑いのネタ作りが起承転結の訓練となっているのであろうか。雑誌ジャーナリズム賞作品賞を受賞した本書も、お笑いコンビ「髭男爵」の山田ルイ53世が今は亡き「新潮45」に連載していたものである。
 筆者自身も含め、10組(13人)の、一発(だけ)当てた芸人の興亡が取り上げられ、微妙に上から目線ながら、軽妙な筆致で、一発後の人生までが炙り出される。
 炙り出された芸人は;
  ・レイザーラモンHG
  ・コウメ太夫
  ・テツandトモ
  ・ジョイマン
  ・ムーディ勝山と天津・木村
  ・波田陽区(ギター侍)
  ・ハローケイスケ
  ・とにかく明るい安村
  ・キンタロー
  ・髭男爵
 皆、ここ10年くらいの間に、一度は天下を取った芸人の筈なのだが、実はしかと覚えているのは、レイザーラモンHG、テツandトモ、ギター侍、とにかく明るい安村、キンタロー、髭男爵だけであった。僕がそれほどお笑い通でないせいもあるが、それほどに世の神羅万象は忘れ去られていくものなのである。髭男爵自身も、最近はエゴサーチをかけても、「official髭男dism」しか掛かってこないとネットで嘆いていた。
 本書は、そんな忘却の流れに掉さすささやかな試みである。なぜなら、本書の惹句に書いてある通り、ブームは去っても「それでも人生は続く。」からだ。
 たまには思い出してあげよう。

ばるぼら2021/02/27 22:40

□ばるぼら(手塚治虫原作、手塚 眞監督 2020)

 手塚 眞監督が舞台挨拶をすると聞いたので、手塚治虫の息子が見たいという野次馬根性で駅前映画館に向かった。監督は、すらりと背の高い白髪のおじさんで、女性(おばさん)ファンに囲まれて嬉しそうだった。
 映画は、奇妙な作品だった。原作は読んでいないが、多分、忠実に映像化しているのだろう。絵では耽美的、幻想的に表現できるシーンが、実写ではどうしても生臭くなってしまう気がした。主演の稲垣吾郎と二階堂ふみ、どちらも頑張っているが、怪しいデカダンスの世界には健康すぎて向かないみたいだ。
 原作マンガの制作年を調べると、佐川君事件として巷間に知られるパリ人肉事件(1981年)に先立つ1973年だった。天才手塚の予知能力に慄く。


手塚眞監督
ばるぼら