恍惚病棟2020/12/18 01:23

□恍惚病棟(山田正紀 1992)

 僕は、哲学漫画と評された「神狩り(1975)」以来の山田正紀のファンであるが、今月号のSFマガジンに、新装版の文庫で祥伝社から復刊されたと書いてあった「恍惚病棟」は知らなかった。早速、図書館で見つけて読んでみた。老人力入門者としては、実生活の参考になるかと思ったのだ。
 内容は、SFではなく、老人病棟で相次ぐ痴呆症老人の変死の謎を解く推理小説だった。本格ミステリ大賞を受けた「ミステリ・オペラ(2002)」に先立つこと10年の作品である。と云っても、山田正紀なので、謎の中心には、画期的な治療法としてSF的なアイデアが導入されており、境界的な作品である。
 ただ、何分にも28年前の作品なので、今の目で見ると、当時の最先端技術であったヴァーチャル・リアリティや萌芽的なAIの捉え方などには、違和感も感じる。
 しかし、復刊を続けてロングセラーになっているのは、老人性痴呆という、ある確率で起きる残酷な真実をテーマに据えた先見性の為であろう。老人になると男は孤立しがちだが、女は惚けても社会性を維持するというのは、本当にそうだろうと思う。
 作者も早70歳、もはや病棟の内に入る可能性も無いとは言えない訳で、でも、こんな治療法は受けたくないだろうな、と思った。