鬼滅の刃2020/12/13 23:10

□ピアスを付けた桃太郎の鬼退治

 遅まきながら大評判のアニメ「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」を観てきた。歳をとってもミーハーだから、流行り物は気になるのだ。ディズニーアニメの公開延期などでライバルがいないせいか、興行はすこぶる好調で「千と千尋の神隠し」の約三百億円を抜く勢いだという。
 僕も、千と千尋を質的に凌駕するとまでは思わなかったが、丁重に描かれライティングに凝った背景や、機関車などの3DCGとセル画風の2D作画を違和感なく融合した動きのある画面に感心し、文字通り猪突猛進的に進む鬼と少年剣士とのバトルを充分に楽しんだ。
 物語としては、大正に蘇った「桃太郎」の鬼退治である。昔話、つまりある種の原型の物語なので、面白くて力強い。しかし、桃太郎には、戦意高揚に利用された過去があり、その意味では、主人公の竈門炭治郎(かまどたんじろう 難しい漢字だ。)の耳飾りの日輪文様から旧日本軍を連想して拒絶反応を示した、韓国の一部の見方は、あながち全く根拠のない誤解とは言い切れないものがある。ちなみに、僕の覚える限りでは、耳にピアスをした少年漫画の主人公は炭治郎が最初ではないか。
 ただし、桃太郎は鬼を退治して財宝を得たが、鬼殺隊の少年剣士たちは、ほぼ無敵の鬼たちに哀れにも殺され続ける。偶然か必然か、今の時期での公開で、鬼たちは、近代文明が切り捨てた森に棲むなにものかの復讐を体現するものとして、コロナ禍のメタファーにもなっており、これも大ヒットの一因と思う。
 時代背景を大正にしたのも絶妙だと思う。江戸時代では古すぎて、感情移入がし難いし、時代考証も大変だ。昭和では、新しすぎて、鬼相手のチャンバラはさすがにリアリティがなくなる、よしんば鬼が出て来ても軍隊の出番となるであろう。明治では、列車のような近代的なガジェットは出し難い。鬼の棲まう古代と観客のいる現代をつなぐ時代として大正を選んだのは誠に秀逸である。
 惜しむらくは、折角の魅力的な時代設定なのだから、明治を抜けて仮初めの大正デモクラシーを謳歌する市井の人々、街の賑わいなどをもっと画面に入れてほしかった。
 次回作に期待しろということか?


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