消えたダ・ヴィンチ2020/11/27 00:43

□「消えたダ・ヴィンチ」(J.G.バラード 1964)

 絵を通り抜けてタイムトラベルする女の子が主人公の「カンヴァスの向こう側」を読んでいた時に、そういえばバラードの作品に、レオナルド・ダ・ヴィンチが現代に来てとかいう話があったなあと思ったが、記憶が定かではなかった。調べてみたら「J.G.バラード短篇集3-終着の浜辺(東京創元社 2017)」に収録されている「消えたダ・ヴィンチ」がそれだった。
 ただ、ダ・ヴィンチがタイムトラベルするというのは記憶違いだった。処刑場に赴くキリストに暴言を吐いたために、最後の審判の日まで世界中を放浪する羽目になった、さまよえるユダヤ人ことアハシュロスが、現代のルーブル美術館に現れ、ダ・ヴィンチの名画「磔刑図」に描かれた、いかにも悪人の己が姿を、良い人に見えるように改ざんする話だった。
 呪われた不死人が現代まで生き延びて悪さをするという点では、タイムトラベルものではなくドラキュラものの系譜だった。尤も、この作品の最大のフィクションは、キイとなる「ダ・ヴィンチの磔刑図」にあった。実はこんな名画はどこにもなく、完全にバラードの創作である。作者あとがきによると、この「磔刑図」を本物と信じてルーブル館内を探し歩いた読者からお手紙も戴いたそうな。
 この短篇集には、このほかに「薄明の真昼のジョコンダ」と題する、同じくダ・ヴィンチの「岩窟の聖母」が登場する小品も収められており、バラードの芸術趣味というかスノビズムが楽しめる。ちなみに「岩窟の聖母」は、ちゃんとルーブルに実在する。


JGバラード


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