絵画の発明2020/03/10 21:51

□絵画の発明-ジョルジョーネ「嵐」解読(サルヴァトーレ・セッティス 2002)


ジョルジョーネ

 16世紀イタリアの画家ジョルジョーネの「嵐」として知られる絵では、水門の上に立つ奇妙な円柱を挟んで、右端に赤子を抱くほぼ裸の女(通称ジプシー女)、左端に直立する男(通称兵士)が配置され、空には雷雲が轟いている。

ジョルジョーネ

 物語の一場面らしいが、も一つ判然としないこの絵は、今に至るまで「何が描かれているかわからない謎の絵」とされてきた。抽象画やシュールリアリズムなど、訳の分からない絵に馴れた現在の僕らには不思議なことだが、長らく聖書や神話、歴史などを文字通り絵解きするのが絵の役目だった当時の絵の常識からすると、この絵の分からなさ加減は突出しており、多くの美術学者がこの絵に魅せられ、図像学を駆使して謎ときに挑戦している。
 本書は、それらの謎解きの集大成を目指したものであり、明確な結論は避けているものの、「絵画の発明」というタイトルから察するに、著者は、この絵を、旧来の聖書等の絵解きから解放された、そもそも絵に意味なんかないと主張した最初の自律的な絵画とみなしているらしい。
 僕個人は、本書で紹介された諸説の中では、2人の男女の組み合わせが伝統的に示す主題、アダムとイブの楽園追放という説に最も共感する。この絵を素直に眺めると、楽園を追い出され最初の子を産んだイブが、アダムに「これはあなたの子なんだから、ちゃんと責任取って、私たち親子を養わなくてはならない」と詰め寄っているのを、アダムがとぼけて聞き流しているように見えるからだ。

 そう言えば、日本で一番有名なジョルジョーネの作品は、おそらく「眠れるビーナス」だと思うのだが、僕はこの絵を見ると、なぜか「夏は股間が痒くなる」という痒み止めクリームのTVコマーシャルを思い出す。

ジョルジョーネ


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