藤田嗣治展2018/08/15 19:53

□これだけ上手けりゃ、そりゃあ売れる。

 上野の東京都美術館でやっている没後50年藤田嗣治展を見てきた。
 なんと、第一・三水曜日は、65歳以上は入場無料なので、成りたてシニアの僕も遠慮なく利用させてもらった。午後4時に入ったが、心配したほどの混雑は無く、ほとんど並ばずに入れた。やはりゴッホの時ほどには混まないのだ。
 芸大卒業ごろからレオナール藤田となった晩年までの作品がたくさん並べてあって見ごたえがあったが、やはり真骨頂は、乳白色の肌に面相筆で墨の線を入れるスタイルを確立したエコールドパリ時代の裸婦像であった。
 特に、大画面の「五人の裸婦(1923)」は本当に素晴らしく、古典的な油絵の技法と、北斎の末裔、浮世絵美人画の伝統が見事に調和した画面は、稀有の東洋の天才絵師の面目躍如であった。しかも、この裸婦像、5人と言う人数と、立像と坐像の組み合わせなど、どこかで見たような印象からして、ピカソのかの「アヴィニョンの娘(1907)」へのの藤田流の返答なのかもしれない。
 これでは、人気が出て当然である。僕は、展覧会で絵を観て感心しても、家に持って帰って飾ろうとはなかなか思わないのだけれど、藤田の裸婦の小品ならば、貰って帰りたくなった。完璧な技術による、女、子供と猫の絵、これが売れる絵の条件だということが、しみじみと良く分かった。分っても真似できるわけではないが。
 その藤田をもってしても、色彩豊かに南米の風俗を描いた違う傾向の絵は、上手いとは思っても何か平凡な印象を与える。画家にとって、その個性が最も発揮できる画風とモチーフに出会うことがどれだけ大事かと言うことだ。実際、藤田も、晩年にはパリ時代の画風に戻っている。
 この展覧会の裸婦以外の目玉は、巨大な戦争画「アッツ島玉砕」であった。画集等ではあまり分からなかったが、実物でははっきりと、日本軍と米軍が血みどろの殺し合いを演じているのがわかる地獄の群像図である。全体に暗い色調ながら、肉体の筋肉の動きがしっかりとわかる群像図で、戦意高揚というよりは、ミケランジェロの宗教画を意識して描いたのではないか。


藤田嗣治展